「コンビニ人間」コンビニを体現する人がいたら、こんな人なのかもしれないと思えた作品
たまには文学小説を読むのもいいだろうと思い、「コンビニ人間」を読んでみた。

Kindle Unlimitedの対象になっていて、なにかの分野でトップに出ていたので、ひとまず読んでみようと思ったのだ。
すると、止まらなくなってしまい、そして読了してしまった。そんなに長い小説じゃなかったこともあるが、とてもテンポよく話が進んでいき、いつ本を置けばいいかわからなくなった。
ヒロインに対する、私の最初の印象は、倫理観が乏しく、そういう発達障害を持った人物なのかと思ったんだけど、読み進めているうちにどうもそうじゃないな、と思うようになった。
非常に合理的に物事を考えていて、結果を得るために何をすべきかを考え、実行する。その手段が往々にして「普通」の人では思いもしないものを思いつき、よりによってそれを選ぶのだ。人を黙らせるためにスコップで殴りつけたり、ナイフを使えば簡単だとか思うことは「普通」はないだろう。
そんなふうに、彼女はどこか「普通」とはズレていて、現実世界に合わせようとチューニングしている様が描写されている。
そのチューニングがドンピシャに合ったのがコンビニだったようだ。
コンビニに最適化されていて、コンビニに適用している。身体の細胞がコンビニの声を聞いている。
セブンやファミマ、ローソンといった実店舗を擬人化してみると、それぞれちょっとずつ性格に違いがありそうな感じはするんだけど。
そういった個性を剥ぎ取って、コンビニの本質を体現すると、このヒロインなんじゃないかとすら思えた。
彼女はスーパーではなく、マックやスタバでもないのだ。あくまでコンビニなのだ。コンビニに適用するために人生をすべて捧げていて、そのことを自然と受け入れている。コンビニを愛しているとかそういう次元の話でもなくて、コンビニそのものなのだ。
話の転換期で、クソみたいな男 (と私だったら判断してしまう)が出てくるんだけど、彼女はそういう「クソみたい」といった評価は全くもってなくて、コンビニにとって役に立つのか、立たないのか、という基準で彼を見ていたようだった。コンビニに役に立つ手段になると思ったらためらいもなく利用するし。
すべてはコンビニが基準になっているから、コンビニから離れると何をしたらいいかわからなくなってしまうし。
そういった、人格的には破綻してそうな人物なんだけど、読んでいるうちに、これって彼女だけのことなのか?とも思えてくる。
多くの人が他人に合わせようとするし、この世界にチャンネルを合わせようとしているだろう。程度の差はあれ、その点では彼女だって「普通」なんじゃないかとも思えてくるのだ。
一気読みしてしまったんだけど、読み込んでいくほどに、また違った彼女の側面も見えてきそうだ。年月を経て再読したら、また違う印象になるかもしれない。
全体を通じて、ここまで五感を使ってコンビニを表現している本書は、今の時代の人だからこそわかる空気感がある気がする。コンビニがない時代の人には全くわからないだろう。そのくらい現代のコンビニを表現していると思う。
思わず一気読みしてしまうくらいに面白い本だった。






