文献管理アプリに求める要件を再考する。Zoteroは何ができて、何ができないのか
私の研究活動の一環として、フリーの文献管理アプリ「Zotero」を使って、気になる論文や書籍などの情報を集約している。

Zoteroは文献管理という点では使い勝手のいいアプリだと思うんだけど、Androidに対応しておらず、Androidタブレットを多用している私としては、その点では使いづらさを感じている。iOSには対応しているのに、未だにAndroid用のZotero公式アプリは存在していない (beta版はあるみたいだけど)
Androidで使えない点でモヤっていたところで、そもそも私が「文献管理」という文脈でやりたいことって何なんだろう?というのを改めて考えるようになった。
文献情報の管理?文献の管理?文献の閲覧?
まず思い当たったのが、以下は違う機能なのだから、分けて考えるべきじゃないか、ということだ。
- 文献情報の管理
- 文献の管理
- 文献の閲覧
1.は論文や書籍の名前や著者、出版元、出版年などの管理である。言うなれば、論文や書籍のメタ情報の管理と言える。
2.は論文や書籍といった、文献そのものの管理である。論文や書籍などが、具体的にどこにあるかを管理することだ。家の本棚のどこかにあるとか、◯◯図書館で借りたとか、電子ファイルとしてどこに保存しているとか、そういった物理的な管理である。
3. はそうやって管理された文献を、私に見えるように開いて見せてくれることだ。
私は当初、これらの3つをごっちゃに考えていた時期があった。それは今どき論文=PDFファイルで入手するからだ。おかげで、文献管理アプリは文献情報の管理も、文献の管理もしてくれて、閲覧までサポートしてくれているものだと勘違いしていた。
ただ、よくよく考えてみると、論文だって論文誌で読むことはあるし、書籍は紙に印刷されたものを持っていたりする。何十年か前に遡ってみれば、そもそも電子的な文献なんて存在しなかったわけで。それを思うと、文献情報の管理と、文献の管理は別ものだと考えた方が自然だろう。
そう考えると、パソコン上に存在する文献管理アプリが直接管理できる文献というのは、世の中に存在する文献のごく一部に過ぎないものだ。せいぜいPDFファイル化された論文なり書籍なり、そのくらいだということ。私の部屋にある本棚の管理までしてくれるわけがない。
それこそ、書籍なんて電子的に存在しているとしても、それがKindle本だとしたら、文献管理アプリのカバー範囲外である。文献管理アプリからワンクリックでKindle本を開くところまでつながることはないのだから (そういうアプリを私が知らないだけで、もしかしたらあるかもしれないけど)。物理的に存在している文献であれば、やはり自分で取りに行って、自分の手で開くしかないのだ。
つまり、文献管理アプリに求めることができるのは、せいぜい文献情報の管理までで、文献の管理や閲覧はできる範囲でやってもらえばいい、というスタンスが正しいのだと思う。電子ファイルであれば直接開くことができるかもしれないけど、物理的な文献であればその保管場所を記録しておくくらいしかできない、という感じで。
繰り返すが、パソコン上のアプリでは、PDFファイルは開けても、物理的な本棚にある本を、私の眼の前まで持ってきて、開いてくれるところまではできないのだ。
文献リストの管理をするためのファイルフォーマット (Bibtex, RIS)
このように、文献情報の管理と文献の管理、閲覧を分けて考えると、J-Stageに掲載されている論文のページからダウンロードできるBibtexやRISといったフォーマットのファイルがやっていることがわかってくる。
あれらのフォーマットは、あくまで文献情報の管理をするためのフォーマットだ、と捉えるといいのではないか (実際、そういうものだ)。
例えば、文献管理アプリにJabRefというのがあるが、あれはあくまでそのBibtexファイルのフロントエンドだと捉えるとわかりやすい。Bibtexファイルはテキストファイルだから、メモ帳などのアプリで直接読み書きできるものだけど、若干、人間には分かりづらいフォーマットだったりする。JabRefは、それを閲覧したり編集したりしやすいようにしてくれているのである。
JabRefでBibtexファイルを開いてみると、General > Fileという項目があり、PDFやWebページであれば文献の管理や閲覧まで踏み込んだ対応ができるようになっている。
ただ、あくまでJabRefが対応しているのは、文献情報を管理するBibtexファイルの閲覧や編集のサポートである。そして、閲覧編集できる項目の1つに、PDFファイルのパスが登録できる項目がある、というだけだ。そして、そのパスの登録があれば、PDFファイルを開くところまではやってくれる、というだけ。
そんなふうに考えると、いくつかある文献管理アプリが何をどこまでサポートしようとしているのかが見えてくる感じがする。
文献管理アプリが頑張っているところ
ここまで、文献管理アプリは文献情報の管理をしてくれるものであり、文献の管理や閲覧までは完全にカバーできない、と考えてきた。
その上で、文献管理アプリは追加で何をしてくれているのか?を考えると、使い勝手の良し悪しが見えてくるのだと思う。私がZoteroにたどり着くまでに色々と調べた感じだと、文献管理アプリには主に以下のような機能があるようだ。
- 文献情報の管理
- 文献の管理
- 文献の閲覧
- 文献の取り込みサポート (Webページから取り込める、文献情報を抽出してくれる、Bibtexに追記できる、など)
- 論文執筆時に引用を作ってくれる
- 論文を読むサポートをしてくれる (マーカーを引くとか、メモを残すとか)
- PC/スマホ/タブレットなど、マルチプラットフォームに対応し、いつでもどこでも使えるようになっている
1. ~3. はこれまでに語って来たとおり。PDFファイルなら積極的に開けるようにしてくれている (3. までカバーしている)ものが多い。
4. あったりなかったりか。あるととても便利。文献情報を自分で全部手打ちするの大変だし。Bibtexの取り込みでは差異がないだろうけど、Webページ内のテキストを解釈して抽出するような仕組みだと差がでてきそう。Zoteroで言えば、Amazonの書籍ページから文献情報を取り込むことができるChromeプラグインがあるんだけど、著者名とかの解釈がまだまだで、結構ひどいことになっている。
5. は大体のアプリが対応してそう。ただし、自分が望むフォーマットで作ってくれるかはアプリによりそう。
6. はあったりなかったり。JabRefにはない。Zoteroにはある。この辺が、JabRefはあくまでBibtexのフロントエンドという捉え方をした方が位置づけがわかりやすいと思ったポイントだ。JabRefにもコメントなどの項目はあるから、そういうのを使えばメモは書けそうだけど。
7. がかなり対応がバラけている。全体的にiOSは充実していて、Androidは後回しか微妙だったりするようだ。Zoteroはまさにそのパターン。開発には時間やお金がかかるものだから、どうしても優先度の高いものから充実していくのも仕方があるまい。
Paperpileの評判がいいのは、これらの機能をすべて高いレベルで賄っているからなんだろうな、と思う。有償なだけはある?
Zoteroがカバーしているところ
私がこれまで使ってきたZoteroでいうと、上記1. ~ 7. の全部をカバーしていると言えそう。ただし、4. は微妙なところがあり、6. は一部しか対応していない。私としてはAndroid対応してないのが残念、無念。。。
3. が完全にはできない (本棚の本を持ってきて開いてくれるわけがない)のはどのアプリも同じ。
と考えると、Zoteroは優秀な方だと思う。
文献管理アプリを選定しているときに、よくわからないなりに選んできたものだが、そこまで的外れではなかったようだ。
おわりに
Zoteroで管理している論文をAndroidで読みたい!と思ったところからはじまり、気がついたら「私は文献管理で何をやりたいんだ?アプリに何をサポートしてもらいたいんだ?」といったところまで踏み込んで考えてしまっていた。
初学者らしく、わからないなりにもあがき、考察してみた結果、そんなにZoteroは悪くなかったという結論になった。Androidに対応してないけど。
まあ、この過程でBibtexって何?というのがわかってきたり、他の文献管理アプリの特徴をまとめる観点が出てきたりしたから、悪い時間ではなかったと思う。
思ったものがないなら、いっそのこと作ったらいいじゃないかとか思えてきたけど、その労力を思うと別のことを考えた方がいいんじゃないかと思ってまたモヤる。
そして思うのだ。文献管理の追求ではなく、肝心の研究を進めなくては!